第 028 回
若草山の丘の上に立つと、何もない。
大きな建物も、派手な装飾も、人混みの喧騒も、何もない。ただ、青々と広がる草原と、その先に奈良の街が静かに広がっているだけだ。
それなのに——いや、だからこそ——何か満ち足りたものを感じる人がいる。空があり、風があり、光がある。遠くに山の稜線があり、ゆっくりと流れる雲がある。足元に柔らかな草がある。
「こんなにたくさんのものが、ずっとここにあったのだ」と、ふと気づく。
『無い』ものを嘆くより、『在る』ものに感謝しよう。
いかに沢山の『在る』ものに囲まれているか気づく。
「在る」ものへの気づきは、静かな場所でこそ訪れる。今日、ひとつだけ——「あって良かった」と思えるものを、探してみよう。